へき地ならではの在宅医療とコミュニティナース活動‧地域看護の実践
大井田病院がある高知県宿毛市は、高知県西部に立地し、人口2万人足らず、高齢化率40%、商業施設や公的機関、医療機関はほぼ中央の市街地に集中しています。海と山などの豊かな自然に囲まれている一方、⼀番近い空港まで3時間かかる立地や、学業や仕事を求めて若者が流出することから、医療介護に携わる人材不足があり、人々が当たり前として享受し、⼤切にしてきた豊かな暮らしの継続をどのように実現するのか、日本の地域が抱える課題が宿毛市には凝縮されています。
大井田病院での地域看護の実践‧コミュニティナース活動は、そんな地域のニーズに応えることと院内の働き方改革の⼀環として新しい働き方を実践することを目的に2019年から取り組みがスタートしました。
2022年には活動できる人を看護部の全職員に拡大し、まずは希望者から勤務時間内に病棟の外に出て、地域看護の実践‧コミュニティナース活動がスタートしました。徐々に実践数も増え、看護部職員のうち32.1%が病棟の外で何かしらの取り組みを始めました。
大井田病院のコミュニティナースは、地域と病院と両方を行き来し、行政や地域の専門職や住民、院内の管理職、専門職などといっしょに、健康な地域づくりや職場づくりに取り組む存在と定義しています。予防から看取りまでのすべての健康レベルに関わる看護を、病棟での看護から地域の中でのコミュニティナース活動を通じて実践し、病棟の看護だけでは体験できない看護の原点(本質)を扱うことにも重きを置いています。
コミュニティナースとは
「人とつながり、まちを元気にする」コミュニティナースは、職業や資格ではなく実践のあり方であり、「コミュニティナーシング」という看護の実践からヒントを得たコンセプトです。地域の人の暮らしの身近な存在として「毎日の嬉しいや楽しい」を⼀緒につくり、「心と身体の健康と安心」を実現します。また自分の個性や専門性を活かし、地域住民や専門性を持った人とともに中長期的な視点で自由で多様なケアを実施します。島根県雲南市の保健師矢田明子さんのアイデアで生まれたコミュニティナースは、Community Nurse Company株式会社が中心となり、オンライン研修やフィールドワークなども行い、今全国に100人以上の卒業生がいます。その実践は100人100通り!Community Nurse Company
~地域の社会資源を活用した予防的な健康づくりと暮らしの中でのケア~
2021年から宿毛市が実施している屋内運動施設『すくもいきいきサロン』に、月2回程度、理学療法士と看護師が訪問し、サロンに来ている住民さんに身体の状況に応じた運動の提案や、運動効果のわかる体力チェックや体組成計の結果を使った健康相談などをしています。
肩が上がらない、膝が痛いなどの相談や自分に合う運動の仕方をアドバイスしたり、検査結果や薬の処方内容に関する質問にも対応しています。また医療や看護に関わる話だけではなく日常的な生活の話から、日々自宅や地域の中でどんな暮らしをしているか?などにも耳を傾け、暮らしの中で住民さんが自分の体の状態を知りセルフケアに興味を持ってもらえることも意図しています。
~医療MaaS車両を活用した地域へのアウトリーチとオンライン診療の推進~
2020年からの新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、オンライン診療が解禁されたことを追い風に、コミュニティナースが住民さんの自宅に訪問し、コミュニティナース(看護師)が同席しながらオンライン診療を受けることに取り組み始めました。
2022年度には、宿毛市と協働して「SUKUMOオンライン医療実証事業」に取り組み、医療リソースへのアクセスが困難な中山間地域でも画面越しの診察に加えて、医療機器を搭載したキャンピングカー(医療MaaS車両)を導⼊して地域でのオンライン診療を行っています。
車内には、遠隔での診療を補助する遠隔聴診器や遠隔超音波などの医療機器を搭載し、医師が病院にいながら、より精度が高い診療が可能になりました。自ら通院が難しくなった方の自宅に看護師が訪問し、医療MaaS車両の中でオンライン診療を実施しています。
またオンライン診療に加えて、宿毛市内の中山間地域の集会所などに看護師‧理学療法士などが医療MaaS車両で訪問し、その場でテーブルやイスを広げて『移動保健室』を行っています。可愛らしいキャンピングカーを目印に地域の⽅々が集まる機会を作り、何気ない会話から看護師‧理学療法⼠との健康相談などを行っていて、必要に応じてオンライン診療も行っています。
今後は、医療MaaS車両を活用したオンラインでの服薬相談や栄養相談、歯科衛生士と相談できる仕組みも作る構想があります。
2020年からベトナムの介護技能実習生の受け入れが始まり、技能習得をしながら一緒に仕事をしています。実習生の素直で明るく真摯な態度は、利用者様に人気でいつも場を和ませてくれて、スタッフも見習うべきことも多く良い刺激となり、多様な背景を持ったスタッフが楽しく働く職場づくりを行っています。
医師‧看護師‧事務職員等で構成された災害派遣医療チームは大規模災害時など発災直後から命のバトンをつなぐため専門的スキルを身に着けたチームです。大井田病院では広域的に活動する日本DMATと高知DMATを編成し、看護部としては、災害支援ナースや高知県地域災害支援ナースの育成にも取り組んでいます。